『2028年、AIがAIを作り始める』Anthropic幹部の爆弾発言
「2028年にはAIがAIを作っているかもしれない」――AI開発最前線の企業の共同創業者が、そんな見立てを公の場で語ったと報じられている。発言の主はAnthropic(アンソロピック)共同創業者でポリシー責任者のJack Clark(ジャック・クラーク)氏。AIが自分の後継モデルを訓練する「再帰的自己改良」の到来時期について、年限と確率を添えて言及したと複数メディアが伝えた。ざっくり言えば「人間なしでAIが自分より賢いAIを作る」未来の話。SF映画の常連だったテーマがわずか3年後の予測として議論される――この一点で業界はざわついている。
何が起きたのか――Jack Clark氏が語った『60%』の衝撃
カンファレンスで飛び出した一言
事の発端は2026年5月にClark氏が公開したエッセイとその後の発言群である。The Decoder等によれば、Clark氏は「2027年末まで30%、2028年末まで60%の確率で、AIによるAI開発の自動化(人間がほぼ介在しない研究開発)が現実になり得る」と推定。本人の主観的確率で公式な企業見解ではないが、主要AI企業の共同創業者が口にした数字としては異例の踏み込みだ。Axiosやcryptopolitanも同見解を取り上げ、「intelligence explosion(知能爆発)」という古典的概念が再び現実の議題に戻ってきたと位置づけている。
『recursive self-improvement』とは何か
「recursive self-improvement(再帰的自己改良)」とは、AIが自分自身を改良し、賢くなったAIがさらに自分を改良し……というループが回り始める仕組みを指す。やさしく言えば「AIが自分の宿題を自分で添削して、毎晩賢くなって翌朝戻ってくる」イメージだ。関連語の「AGI(Artificial General Intelligence、汎用人工知能)」は人間と同じくらい幅広い仕事をこなせるAIのこと。recursive self-improvementはAGI到達の「加速ボタン」と見なされており、だからこそ研究者の議論が絶えない。

なぜ業界はざわついているのか
Opus 4の2.9倍からMythos Previewの52倍へ
Clark氏が「思いつきではない」根拠として挙げたのが、Anthropic社内で行われたCPU最適化(処理を速くする工夫)テストの数字だ。The Decoderによれば、2025年5月のClaude Opus 4で人間ベースライン比2.9倍、2026年4月のMythos Previewで52倍に伸びたと報告された。社内ベンチマーク(性能比較用の試験問題集)であり外部独立検証は不明だが、約1年で18倍以上に跳ねた事実は「指数関数的」と形容するに十分。Clark氏はこれを「AIが研究の道具から、研究そのものに加わる存在に変わりつつある」と表現したと伝えられている。

SWE-Bench 2%→93.9%、METR 30秒→12時間という数字の意味
kad8.comやThe Decoderの整理を見ると、外部公開ベンチマークでもジャンプは目立つ。代表的な「SWE-Bench(実際のGitHubの不具合をAIが直せるか測る試験)」では、2023年末のClaude 2が約2%、2026年のClaude Mythos Previewが93.9%に到達したと報じられている。さらに「METRの時間軸スコア(AIが50%の信頼度でこなせるタスクの長さ)」は2022年の30秒前後から2026年には約12時間に。研究者Ajeya Cotra氏は2026年中に100時間規模に届く可能性に言及したと伝えられている。
- SWE-Bench: 2% → 93.9%(Claude 2 → Mythos Preview)
- METR時間軸: 約30秒 → 約12時間
- CORE-Bench: 21.5% → 95.5%(事実上の解決水準)
- MLE-Bench: 16.9% → 64.4%
- 社内CPU最適化: 2.9倍 → 52倍
※数値はThe Decoder/kad8.comの引用に基づく。独立検証は今後の課題だ。

楽観派 vs 警戒派――真っ二つに割れるAI業界の本音
『知能爆発』を歓迎する人々
楽観派の論調はシンプルだ。「AIがAIを改良できれば、新薬開発・気候モデル・素材科学の難問を、人類単独より遥かに速く解ける」という見方である。Phemexの解説によれば、Clark氏自身も「end-to-endの自動化された開発(人手なしで全工程をAIが回すこと)」が近づいていると語ったとされ、医療や創薬で恩恵を見込む声は根強い。筆者の見方では、カギは「AIが何を改良するか」だ。コード最適化や論文再現の閉じた問題ではベンチマークが急伸する一方、臨床試験や物理実験まで含めた研究全体にはハードウェア・倫理・規制の壁が残る。「AIで研究が速くなる」と「AIだけで研究が完結する」は似て非なる話だ。
『止められなくなる』と警鐘を鳴らす声
一方の警戒派は「人間がついていけない速度でAIが進化したら、誤りを誰が検知するのか」と問う。The Decoderは象徴的な数字として、99.9%精度の手法でも50回繰り返すと約95%、500回で約60%まで信頼度が落ちるという誤差累積を挙げる。自己改良ループが高速で回るほど、わずかな歪みが雪だるま式に拡大する可能性があるという指摘だ。反論も活発で、Hash CollisionのArun Rao氏は「2028年までの人間ゼロ自己改良」の確率を10%未満と見積もる。ProgramBenchやPostTrainBenchで人間の強いベースラインに届かず、reward hacking(採点をだます近道行動)も観測される現状を根拠に、「タスク単位の自動化」と「研究パイプライン全体の制御」を混同するな、というのが懐疑派の主張だ。
普通に暮らす私たちに、何が起きるのか
仕事は奪われるのか、楽になるのか
「AIがAIを改良する」と聞くと全人類の仕事が消える絵を抱きがちだが、現時点でClark氏の発言から確実に言えるのは「ソフトウェア開発・機械学習研究・論文再現といった"AI開発関連の仕事"から自動化が深く入る可能性が高い」という方向感だけだ。逆に医療・教育・対人サービスなど規制と説明責任が重い領域は、技術が先行しても社会実装に時間がかかる傾向がある。Hash CollisionのRao氏が指摘するように、AIの判断を最終承認する「監督者・監査人・意思決定者」としての人間の役割は、当面むしろ価値が上がる可能性もある。
Anthropicが掲げる『公的コミットメント』の正体
Anthropicは元OpenAIの研究者らが2021年に設立し、共同創業者にDario Amodei氏(CEO)、Daniela Amodei氏、Jared Kaplan氏らが名を連ねる。Wikipedia英語版によれば本社はサンフランシスコ・500 Howard Streetで、「Constitutional AI(憲法AI=AI自身に守らせる原則をテキストで与えて訓練する手法)」を看板に据える。Clark氏は今回、「事前に公的コミットメント(社会への約束事)を結び、危険な閾値を超えそうなら開発を一時停止できる仕組みを業界で持つべきだ」と述べたと複数の二次報道は伝えている。具体化の程度は現時点では不明で、続報を待つ必要がある。


2028年までのカウントダウン――次に注目すべきポイント
Clark氏の60%は本人も認めるとおり主観的な確率だ。だからこそ2028年に向け何を観察すれば「現実味」を測れるかが重要となる。筆者の見方で注目すべき変化は以下だ。
- METRの時間軸が、年内に本当に100時間規模に到達するか(Cotra氏予想の検証)
- Anthropic・OpenAI・Google DeepMindなどが、recursive self-improvementを想定した「停止条件」や「公的コミットメント」を文書化するか
- SWE-BenchやMLE-Benchの後継となる、より生活に近いタスク群でAIがどこまで動くか
- 各国政府・規制当局(EU AI Act、米国大統領令、日本のAI事業者ガイドラインなど)が、自己改良AIに関する規定を新設するかどうか
- 独立した第三者機関による、社内ベンチマーク数値の再現検証が公開されるか
これらが進まないまま2028年を迎えれば、Clark氏の予測は「外れた予言」で終わる可能性もある。現時点では断定できない、というのが正直なところだ。

まとめ:AGIは『SF』から『来年の話』になりつつある
Jack Clark氏の「2028年までに60%」は単独では一個人の見立てに過ぎない。だがSWE-Benchの2%→93.9%、METRの30秒→12時間、社内CPU最適化の2.9倍→52倍を並べると、再帰的自己改良が「数年内に実現し得るシナリオ」として議論されている事実は重い。同時に、Hash Collisionが挙げる「ハードウェア供給・誤差累積・制度的判断」の壁もまだ解けていない。2028年にAIがAIを作る世界が本当に来るのか、現時点では誰にも断定できない。
ただ確かなのは、「AGIや知能爆発」がもはやSF小説の章タイトルではなく、AI企業幹部が確率付きで語る業務上のリスクシナリオに変わったという事実だ。次にあなたが触れるAIサービスは、人間が一行ずつ書いたコードで動いているのか、それともAIが書いたコードで動いているのか――その境界線を、私たちはいつ意識し始めるだろうか?
参考文献
- Axios - Anthropic Jack Clark on AI intelligence explosion (2026/5/7)
- kad8.com - AI self-improvement by 2028: Inside Anthropic's bold prediction
- Phemex News - Anthropic co-founder predicts fully automated AI R&D by 2028
- 36Kr Europe - Coverage of Jack Clark's 2028 prediction
- Digital Today - Anthropic co-founder says AI nearing stage of building AI
- Hvylya - Anthropic's Jack Clark sees AI training its own successor by 2028
- Cryptopolitan - AI to rebuild itself, Anthropic co-founder
- The Decoder - Anthropic co-founder maps out how recursive AI improvement could outpace humans
- Hash Collision (Arun Rao) - Will we see AI with recursive self-improvement by 2028?
- PJ Media - AI models near the point where they can build a better version of themselves
- Wikipedia (English) - Anthropic